ヒール教の二人
「おねがいだ」
オースとラリアは、それぞれの心臓の前で両手をがっしり組んでいる。
二人とも目をつぶっていて、部屋の空気はピーンと張りつめている。
「おねがいだ。どうか、どうか」
彼らはヒール教に属している。
ヒール教とは、
「ヒールを神として、ヒールの吐く言葉は絶対であり、破られざるものである。宗徒を、『履く者(はくもの)』と呼び、履く者は、いかなる場合でもヒールを履いてはいけない。ヒールの前で、虚言を吐いてもいけない。」
という宗教である。
ヒール教には、その道を極めるための修行,「ヒール旅」というものがある。
その内容は、次のようである。
「ヒール旅」
・南の町「レズツク」からまっすぐ北に向かったところにある「サルウートオ」の町に向かう修行である。
・ヒールの指示通りに道を進まなければならず、「サルウートオ」の町に辿りつくまで途中で修行をやめてはならない。
・二人一組で行う。二人二脚である。
・ヒールの指示が二人で異なる場合も、各々は自分の1つのヒールの指示に従う。
・「サルウートオ」まで共に辿り着けた二人の縁は一生続くとされる。しかし、途中で別れる、もしくはひとりしか辿り着けなかった場合、二人の縁はそこで終わりである。
・ヒールの指示とは、以下に記す。
各々が自分の1つのヒールを前方になげる。
1 ヒールが履く側を向いて静止した場合
まっすぐ北に50m進む。
2 ヒールが側面を向いて静止した場合
左に四回まがった後、50m進む。
3 ヒールが裏を向いて静止した場合
もう一度ヒールを投げる。
そう、彼ら二人は自分たちの縁を、ヒール旅によって確かめようとしているのである。
「レズツク」から「サルウートオ」までは300m。まっすぐ歩くのなら簡単だが、ヒールの指示に従わなければならないので、もし1度でも方角がそれたら、「サルウートオ」まで辿り着くのはほぼ不可能になる。
だから、二人は緊張しているのである。
ラリアが言った。
「もし、願わざることをヒール様がおっしゃったらどうしましょう」
オースが言った。
「何を言っているんだラリア。僕らは250mもの長さを一緒に歩んでこれたんだぞ。ヒール様がここで裏切るわけないだろ」
ラリアは震える指で、ヒールのかかとを持った。
「奇跡を信じよう」オースが言った。
オースも自分のヒールを持った。
少しの沈黙が過ぎ去った後、オースが言う。
「せーのっ」
二人は勢いよくヒールを投げた。
ヒールがその紐をなびかせながら落ちてゆく。
二人は心臓の前に両手を組み、目をつぶって祈った。
「僕らの縁が、結ばれますように」
【作者より】
いかがだったでしょうか。
この企画はボードゲーム「DiXit」のカードに、こっぺが背景となるストーリーを描いていくというものです。
いやぁ、愚かというのはデメリットにもなるし、メリットにもなるんですよね。
この二人が身をもって教えてくれている気がしますね。
それでもこっぺは、この二人の結末を応援していますよ?
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この物語はフィクションです。