Koppe’s diary

こっぺが思ったことを書いたり、物語を作ったりするぶろぐです。

環境を変えたいのなら自分を、自分を変えたいのなら環境を変えなさい

ロイお婆さんは腹黒い。

 

ある日、町の少年カイトがロイお婆さんがやっている八百屋に買い物に行った。

 

少年カイトは、ロイお婆さんにこう言った。

 

「とまと2つと、きゅうり、それからだいこんをくれるかい?」

 

すると、ロイお婆さんは頼まれたものを店の奥から出してきた。

 

「お代は240円ね」

 

ロイお婆さんは、不愛想な顔で言った。

 

本当は200円である。

 

カイトが家に帰り、いざ料理をしようととまとを切ってみると、中はじゅくじゅく、腐っています。きゅうりやだいこんも同じようでした。

 

 

また別の日、ロイお婆さんと近所のお婆さんたちは道路で立ち話をしています。

 

近所のチェファイお婆さんは、肩こりに悩んでいました。

 

ロイお婆さんは、「いいエステ屋さんがあるわ」と言って、ロイお婆さんがいつも好んで通っているエステとは違うところを紹介しました。自分の行きつけのエステに人気が出てしまうと困るからです。

 

後日、チェファイお婆さんがロイお婆さんに言われたエステに行ってみると、それはそれはひどいものでした。エステティシャンが新米なのです。チェファイお婆さんの肩の痛みは悪化し、さらには腰まで痛めてしまいました。

 

 

このようなロイお婆さんの噂が、町でたくさん流れました。

 

ロイお婆さんは腹黒い。

 

彼女はそんなレッテルを張られてしまったのです。

 

当然、ロイお婆さんの八百屋の売れ行きは悪くなっていきます。

 

とある日、ロイお婆さんが開店の準備をしていると、ロイお婆さんは昨日仕入れた野菜がなくなっていることに気づきます。それが数日間続くこともありました。

 

また別の日、お店のシャッターにこんな落書きが書かれていました。

 

「ワルモノおばぁの店」

 

ひどく拙い字です。

 

ロイお婆さんはカラースプレーで書かれたその落書きを、濡れた雑巾で一生懸命落としました。寒い寒い冬の夜でした。

 

ロイお婆さんに対する嫌がらせは日を追って激しくなりました。

 

 

 

雨の日の夜、ロイお婆さんは疲れてベッドサイドに腰掛け下を向きました。

 

その腰は、いつになく丸まっていました。

 

彼女の表情は見えません。

 

でもきっと、暗い顔を浮かべているでしょう。

 

ただし、なにかごにょごにょ言っています。

 

顔は下を向いたままです。

 

「呪ってやる。。。あいつらになんでそんなこと、されなきゃいけないのよ」

 

彼女は部屋でひとり。

 

 

 

 

 

 

 

な、はずでした。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の家の中に入ることができるのは、彼女ひとりな  はずでした。

 

 

 

でもたしかに、その部屋には二人の人間がいるのです。

 

 

「はっ!」

 

 

ロイお婆さんはなにかの気配を感じて、急いで顔をあげます。

 

 

「ぎゃぁぁーー」

 

ロイお婆さんは驚いて後ろのベッドに寝そべってしまいます。

 

目の前に、誰かがいます。

 

彼女は初めて肉眼でそれを見ました。

 

なんと、そこにいたのは彼女自身だったのです。

 

ロイお婆さんはあまりの驚きに、声も出せません。

 

そして同様に、もうひとりのロイお婆さんも声を出しません。

 

もうひとりのロイお婆さんは、おもむろに自分の身に着けているエプロンをあげます。

 

そのなかは空洞になっていて、棒のようなものを持ったロイお婆さんが少年に怒っているという劇が行われていました。

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もうひとりのロイお婆さん

ロイお婆さんはまじまじとそれを見ます。

 

もうひとりのロイお婆さんは何も言いません。しかし、なにかを伝えたそうな、にやりとした顔つきをしています。

 

劇は続きます。人形のロイお婆さんは棒を振り上げ、少年に振りかざします。

 

「パチン」という音とともに少年は倒れました。

 

ロイお婆さんは状況をよく理解できません。

 

ただただ雨粒が家の屋根に当たる音だけをうるさく感じます。

 

劇はもう一度最初から始まります。

 

ロイお婆さんが棒のようなもので少年をパチンと叩き、少年は後ろに倒れます。

 

その光景を何度か見た後、ロイお婆さんは顔を上げ、ロイお婆さんと目を合わせました。

 

ロイお婆さんはなにも言いません。しかし、直接こころに語り掛けてくる声が聞こえます。

 

 

 

これでいいの?わたしは、これでいいの?

 

 

 

 

 

 

ふと目が覚めると、雨は上がり、朝になっていました。

 

ロイお婆さんはいつものように開店の準備をします。

 

シャッターにはこんな文字が書かれていました。

 

「忘れないで」

 

ひどく拙い字です。

 

その日、ロイお婆さんは道行くひとにただで野菜を配りました。

 

もちろん、新鮮で、おいしいものです。

 

その日、ロイお婆さんの通っているエステは繁盛していました。

 

たくさんのお客のなかに、チェファイお婆さんもいました。

 

 

 

 

 

ロイお婆さんの悪い噂はなくなり、いい噂が流れ、お店の売り上げも回復してきました。

 

 

ロイお婆さんのこころは清く澄んでいました。

 

 

ロイお婆さんがお店のシャッターを閉めると、その落書きはもうすでに消えていました。