「こころ」を作る科学者
長年の研究によって、科学者ベネヒルはついに「こころ」のレシピを完成させた。
彼には共に心の研究をする仲間が2人いた。
しかし、その2人は実験の途中で命を落としてしまった。
ただ、ベネヒルはさほど悲しまなかった。
ほぼ毎日のように顔を合わせていた仲間が亡くなったことよりも、「こころ」を作ることに無我夢中だったのだ。
ベネヒルは寝る間も惜しんで、ろうそく一本の灯りを頼りに心の作り方を研究した。
彼は今日もその薄暗い研究室の中で、ひとり、黙々と作業をしている。
そして、彼にとって今日は特別な日だ。
なぜなら、そのレシピが、心のレシピが、完成したからだ。
ただ、ベネヒルはさほど喜んでいない。
そしていざ、仲間とともに作りあげたそのレシピ通りに、実験を始める。
工程は半分のところまできた。順調だ。
長年、15年以上を捧げてきた研究に、終止符を打つ。
ただ、ベネヒルはさほどドキドキしていない。
液体と液体が奇妙な音を立てながら混ぜ合わさる。
そしてついに、最後の工程に入る。
ここまではレシピ通り。極めてうまくいっている。
ビーカーを傾け、中の液体を垂らしていく。
「どぼっどぼっどぼっどぼっ」
そしてついに、完成した。
「こころ」を肉眼で見たのは、人類で彼が最初であろう。
ただ、ここでもベネヒルは喜ばない。
いや、正確には喜ぶ心がないのだ。
失ってしまっていたのだ。
そう、ベネヒルはその研究に心を奪われてしまっていたのである。
だから、出来上がった「こころ」とは、ベネヒルの心である。
そして、ベネヒルはその日に亡くなった。
死因は2人の仲間と同じ、「心」停止であった。
【作者より】
いかがだったでしょうか。
もちろん、この物語はフィクションです。
面白い!趣深い!と感じてくれた方がいるのなら、嬉しい限りです。
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