蓮の葉の上の宝物
僕は父だ。
その日、娘のリンナは門限の7時になっても家に帰ってこなかった。
リンナはまだ小学生で、携帯電話も持っていなく、連絡も取ることができないので僕と妻は心配していた。
「ガチャン」
家のドアが閉まる音がした。
僕と妻は晩飯を食べるのを中断し、1階の玄関に行く。
階段のところから、玄関が見える。
そこには、リンナがいた。
怪我や事故はなさそうだった。
そして、リンナが笑顔になり、何かを言おうとした瞬間、妻が「こんな遅くまで何してたの!」と怒鳴り上げた。
リンナのその笑顔が一瞬にして慄く顔になったのが僕には見えた。
妻はリンナに2階のリビングにくるように言い放ち、階段をスタスタあがっていった。
僕はしばし階段にとどまることにした。
リンナが手洗いを済ませて、階段に来た。
僕と目が合って、僕が「どうしたの」と訊く。
しかしリンナは無言で僕を追い抜き、2階にいってしまった。
そのあとを追うようにリビングに向かう。
3着だ。すでにリンナと妻はリビングのテーブルをはさんで座っている。
僕はゆっくりと妻の横の椅子に向かい、座った。
初めに口を開いたのは、やはり妻のほうだった。
「リンナ、こんな遅くまで何をしてたの」
先ほどまでではないが、相手を威嚇するには十二分な声量と気迫だ。
リンナは下を向いて答えようとしない。
帰宅時に一瞬見せた笑顔は、もうどこを探しても見つからなさそうだ。
その後いくつかの問いかけを妻がしても、リンナはうつむいたままだったので、僕が「今日はもう遅いし、また明日話そう」と言って、それぞれが自室に戻った。
自室に戻り、パソコンを開こうと机に向かうと、机の上に1枚の手紙があることに気づく。
「パパへ まくらぎこうえんの中の1ばんせが高いはすの葉の上に宝ものがあったよ」
11時18分。家を出て、枕木公園へ歩く。
家からすぐ近くの公園だ。
そろそろ夜が寒くなってくる季節。
街灯が月明かりの邪魔をしながらも輝いている。
いろいろなことが頭を支配する中、やはり1番は「蓮の葉の上に何があるのだろう」であった。
今行かなきゃいけない気がした。
だからこうして歩いている。
直に到着する。
案の定公園には誰もいない。
娘の手紙に突き動かされたこの男以外には。
この公園は周囲の公園よりもかなり広い。
蓮がたくさんある沼の方へ歩く。
公園には、道ほど電灯がなく、月をたいまつにして歩くほかない。
そして、辺り一面を見渡して、1番背の高い蓮の葉を探す。
すると奥の方に1つ、群を抜いて背が高い蓮の葉を見つけた。
「リンナが見つけた宝物とはなんだろう」
好奇心が僕を進める。
風はない。
近くに来てみると、かなり大きい。
そして、その蓮の葉の上を覗くと、
そこには様々な種類の果実やその種子が乗せてあった。
僕には、それらはほのかに光をまとっているように見えた。
僕は少し考えた。
そして湧いてきたのは、「大人になったなぁ」というリンナへの感動だった。
そんな物思いに心を浸けていると、背後から足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには妻がいた。
妻も、僕がこんなところにいることに驚いている。
僕が、「おーい、見ろよこれ」と手を振りながら言うと、妻は走って向かってきた。
妻が走っている姿を見るのは久しぶりだ。
そして妻が蓮の葉の上にあるものを確認する。
少し経つと、妻は「ごめんね」と蓮の葉を撫でながら呟いた。
帰り道は2人で歩いた。
「2人きりで横に並んで歩くのは久しぶりだな」
そんなことを話しながら歩いた。
今思えば、こんな経験をもたらしたあの宝ものは、本当に宝物なのかもしれない。
【作者より】
いかがだったでしょうか。
今作はだいぶ長編になりました。
ボードゲーム「DiXit」のカードの背景の物語を創造しております。
面白いと思っていただけたら嬉しいです。
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