Koppe’s diary

こっぺが思ったことを書いたり、物語を作ったりするぶろぐです。

人形販売店のジレンマ

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人形販売店のジレンマ


ある日、哲学者のダニエル・サンバードは、人形に感情を吹き込むことに成功した。

つまり、人形の顔の表情を人形自身が変えることができるようになったということだ。

体を動かすことはできないものの、彼の発明は世界のビッグニュースとなり、たくさんの国や地域がこの技術を取り入れたのである。

 

そして、この技術はこの村、ダソン村にも入ってきた。

 

ダソン村の人形店は、カーリスが切り盛りしているこの1店だけだった。

 

カーリスはこの革新的なニュースをみるなり、すぐにその技術を取り入れた。

 

というのも、この店は、現代の子どもたちが人形ではなくゲーム機ばかりで遊ぶことによる経営赤字が続いていることに、頭を悩ませていたのだ。

 

カーリスは、そんな時にこのニュースを聞いて、

「よし、この技術を取り入れれば再び人形ブームが巻き起こる。

そうに違いない。」と拳を握りガッツポーズを取った。

 

そしてカーリスはいち早くこの技術を学んだ。

 

さっそく、自分の店の人形1つ1つ、いや1人1人に感情を吹き込んでみる。

 

すると、今まで瞳孔ひとつ動かなかった人形たちが、笑ったり、怒ったり、微笑んだりし始めたのである。

 

「なんてかわいらしいんだろう」カーリスは人形たちを見てそう思った。

 

カーリスは集客のために新聞広告を依頼して、明日から販売を開始することにした。

 

カーリスはその日、あちこちの新聞広告社に足を運んだので、疲れてすぐに寝てしまいました。

 

 

翌朝、カーリスが起きると、なにやら外が騒がしいのです。

 

起き上がって二階の窓から店の前を見てみると、大勢の、それはそれは大勢の人が店の前に集まっているのです。

 

「やったぁ」

 

カーリスはいつもならあくびをしていた時間に今日はガッツポーズをしています。

 

1階に降りて、人形たちを見てみると、人形たちは昨日と変わらず寝ていたりにやにやしていたりなどたくさんの表情を浮かべていました。

 

早々と人形たちに値札をつけます。

 

カーリスはわくわくして、まだ開店時間前なのに店を開けてしまいました。

 

シャッターを開けると目の前にたくさんの人が群がっていました。

 

こんな経験は生まれて初めてなのでカーリスはびっくりしました。

ざわわとした音の中から

「ほんとうに表情がある人形が作れたんですか?」という声が聞こえました。

 

カーリスは胸を張ってこう言いました。

「もちろんです!まだ開店時間前ですが、ぜひ見て購入して帰ってください!」

 

すると、ばぁぁーーっとお客さんが店の中に入り人形のおいてあるショーケースの前に集まります。先頭の人が押しつぶされそうな勢いです。

 

小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで、いろいろな人がいます。

 

「よし、これで長年の経営赤字脱却だー」カーリスはそう確信しました。

 

 

ところが、お客さんは帰っていきます。どんどん帰っていきます。

 

「え?え?ええ?」カーリスは目を丸くして帰っていくお客さんを見ます。

 

帰っていくお客さんのなかから、

「あれは買いたくないね」

「表情は浮かべているけど、家に置いておきたくはないね」

などといった声が聞こえてきます。

 

なぜだ。何があったんだ。とショーケースの前のお客さんの間を縫って、人形の様子を確かめると、人形たちの様子がおかしいのです。

 

泣いているのです。うつむいているのです。悲しんでいるのです。

 

「なぜだ。なぜだ。なぜだ。」カーリスは思わず心の声が漏れてしまいます。

 

まわりのお客さんもカーリスに

「いつもこんなに悲しい顔をしているのですか」と訊きます。

 

「違います。昨日だって今朝だって、もっと明るい表情をしていたんです」

 

どうしてだ。カーリスは考えます。

 

まわりのお客さんはざわざわしています。

 

「すいません。帰ってください」

 

 

 

カーリスは開店わずか10分で店を閉じました。

 

人形たちはきっと大勢の人が来たせいで、緊張してしまったのだろう。

 

そう解釈したのです。

 

しかしその見立ては誤りでした。

 

あれから三日経っても、人形たちはうつむいたままでした。

 

ある夜、カーリスは人形たちに話しかけます。

「どうしたんだい?何がいやなんだい?」

優しい、優しい声でした。

 

ですが、人形たちが動かせるのは表情だけなので、もちろんなんの返事もくれません。

 

ただうつむいて悲しい顔を浮かべるばかりです。

 

「よし、なんだか気持ちが変わった。この子たちを売り物にするのはやめよう。」

 

カーリスはそう言って人形たちについている値札を取りました。

 

すると、人形たちはたちまち艶やかな表情を取り戻したのです!

 

あははは。ふふふ。ひひひ。

 

人形たちはにこにこして、カーリスの方を見ます。

 

表情が戻った。喜びの湧き水がカーリスの心臓から溢れ出す。そうか、そうだったのか。売り物にされるのが嫌だったんだな。そうかぁ。

「ごめんよ」

カーリスはそう言って、人形たちの頭を撫でました。

 

 

 

 

 

次の日、カーリスはお店を閉めました。

 

儲かると思って取り入れた「人形の表情が現れる技術」は、カーリスにお金をもたらすどころか、お店を閉店まで追い込んでしまいました。カーリスの人形に対する「愛」を芽生えさせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【作者より】

いかがだったでしょうか。

この企画はボードゲーム「DiXit」のカードに、こっぺが背景となるストーリーを描いていくというものです。

趣深いと思っていただけたら幸いです!

 

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この物語はフィクションです。